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織田作之助『アド・バルーン』 [読んだ本 / 好きな文章]

織田作之助 (ちくま日本文学 35)

織田作之助 (ちくま日本文学 35)

  • 作者: 織田 作之助
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/05/11
  • メディア: 文庫
日本人の作家で自分がいちばん好きなのは今でもやっぱり色川武大(いろかわたけひろ)で、それを超える人はなかなか出てこないんよね。まあ単純に本を読んでいないだけなんだけど。で、文学史的な文脈において色川武大が語られると、ほとんどの場合が「無頼派」というくくりに入れられていて、その無頼派っちゅうグループの代表的作家として坂口安吾と織田作之助が必ず挙げられているんだ。坂口安吾は1~2冊読んだことがあるからもういいとして(え!?)、織田作之助は未体験だったから読んでみた。だって、「ああ、織田作之助? やっぱり無頼派を語る上では外せないよね~」とか言いたいじゃん? なんかカッコいいじゃん? 一体どこが? あと、怖ろしいことにこの本を読んだのは2~3年前の話で、ついこないだ急に思い出して書いています。老化おつ。

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買ったのは、お気に入りの「ちくま日本文学全集」(の古本をゾンアマで)。読んだ感想としては、むー、オレの読書偏差値が足りないせいか、そこまで面白いとは感じませんでした。「面白い」とか言うタイプの文章ではないのかもしれんけど。特に代表作とされる『夫婦善哉』にいたってはイライラしっぱなしで。10年後ぐらいに読んでみたらまた違うのかな。ただ、そこかしこにキラッと光る何かを感じたのも確かだよ。
以下、ちょっと長いけど『アド・バルーン』という短編の一部を引用してみる。主人公が、継母の浜子によって夜店へ連れて行ってもらった7歳の頃を回想するくだり。ここの描写は文字通りキラキラしていて、すごく好き。

新次はしょっちゅう来馴れていて、二つ井戸など少しも珍しくないのでしょう、しきりに欠伸などしていたが、私はしびれるような夜の世界の悩ましさに、幼い心がうずいてたのです。そして前方の道頓堀の灯をながめて、今通って来た二つ井戸よりもなお明るいあんな世界がこの世にあったのかと、もうまるで狐につままれたような想いがし、もし浜子が連れて行ってくれなければ、隙をみてかけだして行って、あの光の洪水の中へ飛び込もうと思いながら、「まからんや」の前で立ち停まっている浜子の動き出すのを待っていると、浜子はやがてまた歩きだしたので、いそいそとその傍らについて堺筋の電車道を越えた途端、もう道頓堀の明るさはあっという間に私の躯をさらって、私はぼうっとなってしまった。

〈~中略~〉

目安寺を出ると、暗かった。が、浜子はすぐ私たちを光の中へ連れて行きました。お午の夜店が出ていたのです。お午の夜店というのは午の日ごとに、道頓堀の朝日座の角から千日前の金比羅通りまでの南北の筋に出る夜店で、私は再び夜の蛾のようにこの世界にあこがれてしまったのです。 おもちゃ屋の隣に今川焼があり、今川焼の隣は手品の種明かし、行燈の中がぐるぐる廻るのは走馬燈(まわりあんど)で、虫売りの屋台の赤い行燈にも鈴虫、松虫、くつわ虫の絵が描かれ、虫売りの隣の蜜垂らし屋では蜜を掛けた祗園だんごを売っており、蜜垂らし屋の隣に何屋がある。と見れば、豆板屋、金米糖、ぶつ切り飴もガラスの蓋の下にはいっており、その隣は鯛焼屋、尻尾まで餡がはいっている焼立てで、新聞紙に包んでも持てぬくらい熱い。そして、粘土細工、積木細工、絵草紙、メンコ、びいどろのおはじき、花火、海豚の提灯、奥州斎川孫太郎虫、扇子、暦、らんちゅう、花緒、風鈴……さまざまな色彩とさまざまな形がアセチリン瓦斯やランプの光の中にごちゃごちゃと、しかし一種の秩序を保って並んでいる風景は、田舎で育って来た私にはまるで夢の世界です。ぼうっとなって歩いているうちに、やがてアセチリン瓦斯の匂いと青い灯が如露(じょうろ)の水に濡れた緑をいきいきと甦らしている植木屋の前まで来ると、もうそこからは夜店の外れでしょう、底が抜けたように薄暗く、演歌師の奏でるバイオリンの響きは、夜店の果てまで来たもの哀しさでした。

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のりこ [読んだ本 / 好きな文章]

クソ中年の琴線に触れた文を書きなぐるこのコーナー。今回は、若い女性が重い肺病で入院している男を見舞いに行く場面です。こんなに繊細で綺麗な日本語、すごいな。って辞書を引いたら、伊藤整は詩人でもあるんだね。

「で、なにをするんだい?」
「満子さんて友達の叔母さんの喫茶店に住み込むことになったの」
 速雄はだまっていた。その黙りかたが、指で壁を撫でまわすような彼の心の動きを典子にさとらせた。そう君がきめたのなら仕方がない。君はそういうことをする女なのだ。だが、僕がよくなって、君の生きてゆく道をそばから見てやることは、できそうもない。君はひとりで生きてゆけるのか。一人で生きてゆく自信か強さを持っているのか。君の生きている世界は、大きな海のようなものだ。僕は岸に残っている。僕にどうしようがあろう。君はそうなるひとだ、と彼の心があてもなく動くのが、よく典子にはわかるのだった。
~中略~
 「いつ?」と彼は言った。肉体ある人間としての自分は棄て、ただ静かなやさしい心で典子のふれてくる言葉だった。
 「二三日うちだと思うの」
 「そうか」と言って、速雄の瞼(まぶた)は、大きな黒い眼の玉を撫でるように、ゆっくりとさがり、そのままじっとしていた。
 典子には、今日、速雄のその尻込みの仕方がありありと分かるのだ。もう速雄は自分と一緒に歩いてゆくことはできないと思っている。残っている生命を全部まとめて、その眼に美しい輝きを漲らせることはできるが、それとてもう典子の生きている騒然とした世界には届かないものだった。自分は、もうこれから一人で生きなければならないのだという思いと、もうこの人は、自分の世界から遠く離れているという感じとが、典子を怖ろしい孤独感でうちのめした。
 そうだったのだ。自分はもうひとりぼっちなのだ、と思い、典子はじっと速雄の手にすがっていた。何ももう言うことがなかった。
 「私ね」と小声で言うと、速雄はやっと頭を彼女の方にねじ向けた。「あなたが早くよくならなかったらひとりで寂しい」
 速雄はそのいっそう大きく見えるようになった骨ばった手をあげて典子の頭を撫でてくれた。そうだよ、もう僕たちは、本当の事が言えないほど別れが近くなっているのだ、とその手が言っていた。

伊藤整 『典子の生きかた』より

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おやこ [読んだ本 / 好きな文章]

ぴんと張りつめてるどころか、ダルダルにたるみまくってるマイ琴線にふれた文章を突発的に紹介するコーナー。

自分はよく両親に伴われた子を――たとえば電車で向かい合った場合などに観る時、よくもこれらの何の類似もない男と女との外面に顕れた個性が小さな一人の顔となり、身体つきなりの内に、しっとりと調和され、一つになっているものだと言う事に驚かされる。最初、母と子を見比べて、よく似ていると思う。次に父と子を見比べてやはり似ていると思う。そうして、最後に父と母とを見比べて全く類似のないのを何となく不思議に思う事がある。
志賀直哉『網走まで』

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みゆきとしゅうごろう [読んだ本 / 好きな文章]

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■ 宮部みゆきの『火車』を読んだ。つっても1年以上も前の話。だから、今さら感想を書こうにも、もうあんまり細かいこと覚えていない(当たり前!)んだけど、世間で絶賛されているほど面白いとは思わなかったっていうのが偽らざるところ。宮部みゆきを初体験した『返事はいらない』っていう短編集よりは楽しめたものの…。「山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作」にこんなクソ虫ふぜいが偉そうなこと言ってサーセン(><) なんかね、とっかかりがないまま読み終わってしまったというか、どこらへんで盛り上がれば良いのか分かんないまま最後のページにたどり着いてしまったというか。
火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1998/01/30
  • メディア: 文庫

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■ 強引に山本周五郎つながりでついでに書かせてもらいますと、シューゴロー先生による『ちいさこべ』も同じ頃に読んだよ。きっかけは望月ミネタロウによるマンガ(『ちいさこべえ』)を先に読んでいたことで、マンガはその時点では完結していなかったものの、たいそう面白くて、これなら原作もさぞや…しかも山本周五郎なんだし…って、思わず文庫本を手にとってしまった次第。マンガとは時代設定の他にも相当違う部分があったけれど、やっぱり爽やかな読後感といいましょうか、さっぱりした短編でかなり良かったよ。マンガ版(全4巻)も激しくオススメ。
ちいさこべ (新潮文庫)

ちいさこべ (新潮文庫)

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1974/05/28
  • メディア: 文庫
ちいさこべえ 1 (ビッグコミックススペシャル)

ちいさこべえ 1 (ビッグコミックススペシャル)

  • 作者: 望月 ミネタロウ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/03/29
  • メディア: コミック

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ちくま哲学の森 [読んだ本 / 好きな文章]

ちくま哲学の森 1 生きる技術

ちくま哲学の森 1 生きる技術

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/09/07
  • メディア: 文庫
これまでに2冊を読んだ『ちくま文学の森』っていうシリーズを初めて見かけたのは市立図書館の書架の高ーいところで、その近くの棚に、この『ちくま哲学の森』も置いてあって、いつか読んでみたいなと思ってた。んで、図書館にあったハードカバーの大きいやつではなく、コンパクトな文庫版をゾンアマの古本で買って初挑戦。「哲学」っていうタイトルにビビっていたけど、少なくともこの「~1 生きる技術」にあっては、内容的には随筆集って考えて大丈夫でした。つまり、リアル哲学っぽいのはほとんど無かったから、か弱きオレの脳味噌はことなきを得た。

特に面白いと思ったのは以下の2つかしら。ちょっと長いけど引用してみる。一つ目は斎藤隆介『大寅道具ばなし』というやつで、昭和42年の雑誌『室内』に掲載されたものだってさ。書いた人のことは全然知らないのだけど、熟練の大工が語る道具に対するこだわりのようなものが切れ味の良い文章で描かれていてイカしてるなって。
 たとえば道具だ。道具に対しての扱いや感じ方がまるっきり違う。倅たちには道具はタダの道具だけど、あたしらの年頃に仕事を仕込まれたものは、道具は女房みたいなもんだし、大ゲサに言やア命みたいなもんだ。
 あたしは十六から仕事を覚えさせられたんだが、それから二年目、十八のときだったといまでもはっきり覚えているが、道具についてえらい恥をかいたのが肝に銘じて、それから根性が変った。
 え? なにね、仕事場へいって、年寄りに、
「すいませんが、ちょっと小ガンナを貸してもらえませんか」
 ってったんだよ。そしたらその年寄りがね、ジロリと横目で流し目に見て、なんとも言えない笑い方をすると、小ガンナを渡して寄越しながら、
「ハイヨ。あると重宝だよ」
 って言ったんだ。それだけだが、あたしァ顔から火が出たね。受けとった小ガンナが、ジリッと手に灼きついたような心持ちがして、しばらくは顔もあげられなかった。
 ――あると重宝だよ……。そう言った年寄りの皮肉を、それからあとも時々思い出しちゃア舌を噛み切りたいような気のしたことがなんべんもあるね。その時の、まるで「女房を貸せ」とでも言われたような、不愉快そうな、にがい、そしてあきらめてうすら笑いした年寄りの目を思い出すと、あたしは地ベタを転げまわりたいほど恥しい気がしたもんだ。
 その時からあたしは決心した。
「ヨウシ、道具は貸しても借りねえぞ」
 だけど貸すのはやっぱりいやだった。のちのち自分がキチンと道具を揃えて仕事場にいって、不用意な奴から貸せと言われて渡してやる時は、「あると重宝だよ」とは言わなくても、あの年寄りとおんなし目付きをしているのが自分にもわかったね。

二つ目は、昭和22年の『婦人公論』が出典の、林達夫による『邪教問答』。前から不思議に感じていた「伝統や歴史があるというただそれだけで、(その対象が宗教であれなんであれ)人は何故こうもありがたがるのか」っちゅう点について書かれている文章を初めて活字で読んだものだから感激しちゃった。文章もさすがにうめえし。ただし、この文は自分の謎に対する答えそのものではないんだけれども。
 私があなたの手紙を拝見してひどく気になったことは、このごろ世間を騒がせている新旧のいわゆる類似宗教を頭から「邪教」と決めつけて見下しておられる、その態度であります。あたかもあなたの属しておられる教会が高級でもあるかのように。
(中略)
 あなたは新しく簇生(そうせい)する宗教を「邪教」と呼んでなにか胡散くさい、いかがわしいもののように見ておられるが、いったい邪教という呼称が何を指す言葉であるか、それを考えてごらんになったことがありますか。新しく出現した宗教は、古来、国家によって公認された既成宗教から必ず邪教扱いされてきたのであります。あなた方の奉ずる宗教だって例外でなく、十六世紀にそれが日本にはいって来た後、キリシタン・バテレンといえば妖法を行う邪宗門と相場が決まっていたのです。
(中略)
 すると、あなたはすぐに反問されるでしょう。自分のいう邪教とは蒙昧な神憑り(かみがかり)や狂人やぺてん師たちの合作社を指すのであると。ところがお気の毒だが、あなた方の宗教だって、初期には世人からそう見られていたのであり、また事実かなりの程度にそうでもあったのです。
(中略)
宗教の宗教らしい本来の面目を発揮しているのが、休火山みたいに玲瓏と聳え(そびえ)立って深々と眠っている既成宗教なのか、それともごったがえしに沸き立って身も心も焦しているいわゆる類似宗教なのか、それはにわかに定めがたいことであります。いったい宗教とは何ですか。また宗教の発達とか進化とかいっているのは何のことなのですか。第一、宗教に進化などというものがあるのですか。――すばらしい衣装持ちのお化粧上手の宗教のことです。私はその色とりどりの衣装のことや凝ったお化粧のことをいっているのではありません。白粉(おしろい)ぬきの素顔、着物をすっかり脱ぎすてた素裸の宗教のことをいっているのです。

例によって、筑摩書房のホームページから収録作をペーコピさせてもらうぜぇ。
道ができている場所では タゴール(山室静)/空気草履 古今亭志ん生/大寅道具ばなし 斎藤隆介/対談 浪花千栄子・徳川夢声/いろはだとえ モラエス(花野富蔵)/新橋の狸先生 森 銑三/貨殖列伝 司馬遷(小川環樹)/長者の聟の宝舟 辻まこと/高利貸に就いて 内田百間/ハリー W・サローヤン(関汀子)/饒舌について プルタルコス(柳沼重剛)/嘘つきの技術の退廃について マーク・トウェイン(三浦朱門)/結婚生活十則 サーバー(鳴海四郎)/僕の孤独癖について 萩原朔太郎/ある〈共生〉の経験から 石原吉郎/権利のための闘争(抄) イェーリング(村上淳一)/レッスルする世界 ロラン・バルト(篠沢秀夫)/ニコマコス倫理学 第二巻第九章 アリストテレス(高田三郎)/みずから考えること ショーペンハウアー(石井正)/邪教問答 林 達夫/脳病院からの出発 チェスタトン(安西徹雄)/随想録より モンテーニュ(関根秀雄)/いかに老いるべきか ラッセル(中村秀吉)/ケニヤ山のふもと ケニヤッタ(野間寛二郎)/サーメの暮し ユーハン・トゥリ(三木宮彦)/結婚について・子どもについて ジブラーン(神谷美恵子)/老子(抄) 老子(小川環樹)/日本の理想 唐木順三
あまりに乏しすぎるオレの"生きる技術"が向上したかどうかは大いに疑わしいにせよ、上に引用した2編以外にもチラホラとそそられるものもあったし、『文学の森』のときと同じく色んな有名作家の文章を味わえるお得感も感じられたから、また忘れた頃に残り7冊のうちどれかを読んでみようかな。

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図鑑少年 (中公文庫)

図鑑少年 (中公文庫)

  • 作者: 大竹 昭子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/10/23
  • メディア: 文庫

ずーっと『哲学の森』は飽きるかも…みたいなことを思って、この短篇集も並行して交互に読んでみた。もともと1999年にハードカバーの単行本が出た当時、すごく気に入っていたんだ。ブッコフで文庫化された古本を発見して、わー懐かしいと久しぶりに読んでみると…やっぱりこの人の書く文章はすごく良いと思う。さらさら&シャキッとしていて嫌味がない反面、人生の苦味をどこか感じさせる。それでいて、しっかりと前向きなんだ。…何を言ってるかサッパリですよね、サーセン。とにかく、向田邦子に通じるような、オレの一番好きなタイプの日本語だっつうことです。ここでなぜか唐突に裏表紙より紹介文を引用。

都会に暮らす「わたし」が遭遇する小さな事件や出来事。それらは本当に起きたのか、それとも「わたし」の妄想なのか。胸にせまる人やもの、音や情景を辿って、現実と非現実のはざまをたゆたう24篇。新しい都市奇譚として話題を集めた作品集の待望の文庫化。

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もうずっと前の話だから正確には覚えていないけれど、同じ大竹昭子さんによる『アスファルトの犬』という短篇集にあった一篇(ニューヨークかどこかのグラフィティ・アーティストの話)にとても惹かれて、確かそれがきっかけになって『図鑑少年』も読んでみたんだと記憶している。じゃあ、『アスファルトの犬』は何を契機で読もうと思ったのだろう。それはもう思い出せないや。
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森と東野 [読んだ本 / 好きな文章]

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■ なにがきっかけかは思い出せないのだけれど、むかーし読んだことのある『舞姫』と『高瀬舟』をもう一度読んでみたくなって、だったらいっそのこと森鴎外の全集っぽいの買っちゃおうと思って森鴎外の全集っぽいの買っちゃった。筑摩書房から出ている、ちくま日本文学っていうシリーズで、そりゃあもう名だたる文豪の先生方がラインナップされております。例によって、ゾンアマの古本コーナーで入手。なんでこのシリーズを選んだかっていうと、前にも他の人たちもこれで読んだ(つうか、色川武大と尾崎翠も間違いなく持ってたはずなのにどこやったんだ! オレの馬鹿ッ!)ことがあって、読み易さを体験済みなのとコレクション欲みたいなのが少しウズいたのとで。

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■ 全集っていうとどうしても図書館にあるような、重くてどデカいサイズを想像しちゃうけど、これは文庫サイズなのが素敵なんだ。でもね、なんかオレ勘違いしてました。届いた森鴎外は、今まで買ってきたやつみたいに表紙がボール紙の硬い感じではなく普通にペラペラだし、そのせいかサイズが違う。 震える手で自分のタブレットをスワイプ、青ざめた顔で筑摩書房のホームページを検索すると…なんということでしょう、「ちくま日本文学全集」というシリーズは廃盤になっていて、そこから新しく「ちくま日本文学」にリニューアルしたみたいね。ラインナップされている作家の総数も、60人から40人へと減っている。Oh...

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■ ともあれ、エリスさんの悲劇と庄兵衛の戸惑いが久しぶりに味わえたからとりあえずは満足。それ以外は、うーん、『山椒大夫』と『魚玄機』がちょっと面白かったかな。まあ、オレには高尚すぎた、あるいは本格派すぎたのでありましょう。ただ、『阿部一族』とかの時代物はおじいちゃんになった頃にでも読んでみたい。なんとなく収録作を筑摩書房のサイトから以下にコピー。
大発見 / 鼠坂 / 妄想 / 百物語 / かのように / 護持院原の敵討 / じいさんばあさん / 安井夫人 / 山椒大夫 / 魚玄機 / 最後の一句 / 高瀬舟 / 寒山拾得 / 文づかひ / 舞姫 / 沙羅の木


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■ 同時に、芸人・東野幸治の小説も並行して読んでみた。ずーっと森鴎外じゃキツいだろうなと弱気になって、なにか現代人、せめて昭和以降の人を…と思ってダンボールをあさると、たぶんブックオフ100円コーナーで買ったのであろうこの本が出てきた。ハナから「芸人の書く小説なんて、どうせ…」なんて決めつけちゃいけない、そんな偏見こそが自分の読書体験を狭めているのだ、作家の名前ではない、書物そのもの、そのページに書かれている一語一句に真摯な態度で向き合うのだ、自分よ! とは思っていたんスけど、やっぱすごくつまんなかったです。テレビに出ているときの東野幸治はすごく面白いと思うんだけどね。

ちゅうわけで今年もありがとうございました。よいお年をー。
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だれもが知っていて、だれも知らない女 [読んだ本 / 好きな文章]

数年前から気になっていたアメリカの作家、ジェイムズ・エルロイの小説を初めて読んだぜ。したら、とっても面白かった!! 決してお上品とは言えない、B級丸出しの低俗作品だとは思うけど、これだよ。ほんと、むさぼるように読んじゃった。

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お話の題材は1947年に起こった実際の猟奇殺人事件(現実には未解決のまま)。本作ではそれをボクサー上がりの刑事バッキー・ブライチャートが執拗な捜査で追いかけていくというもの。この小説の本筋であろう二転三転する謎解きの要素、つまり「エリザベス・ショートを惨殺した犯人は誰なのか」という点も十分に合格点だった(おまえ何様!?)けど、オレが感じたこの作品最大の魅力は、なんつうても主人公バッキーおよびその周辺人物、すなわち相棒の刑事と恋人に関する人物描写やね。切ないの。ハードボイルドという雰囲気とはまたちょっと違う、みんな自分の置かれた境遇にもがいているんだけど、それが上手く転がらないもどかしさ・じれったさっつうか。向こう側にいる人たちと自分(=主人公)たちとの根本的な差違、それを冷めた目でとらえつつもオレぁ熱くなるときは黙っちゃいないぜ! 的な。例によって何言ってんのか分かんなくてすいません。ともあれ、事件解決に対する主人公の泥まみれの執念と、事件そのものの猟奇性・グロテスクさと、エンターテイメント要素たっぷりなバイオレンス描写と、警察内部の腐敗(「ありがち」とか言わないで!)と、あの人やこの人に巣くう狂気と、大戦後まもない混沌とした時代性が一体となって、不思議な熱気をかもしだしてんのさ。この気迫、このテンション、すげえなあと思った。本が書かれたのは80年代みたいだけど。

ちなみに、オレクラスの低脳だとカタカナの人物名でやっぱりこんがらがった。ひとりの人物を指すのに、上の名前と下の名前とニックネームとが交互に出てくると、我が輩が誇る少容量メモリではさすがに処理しきれない。

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ところで、古本で買ったこの文庫本の表紙は被害者をもとにした画像だそうで。うーん、これが本物・本人なんだと言われちゃあどうしょうもないけど、いま売られている新しい版っぽいバージョンの表紙のほうが…美人…本そのものが魅力的つうか…完全なるゲス的観点で、まじ申し訳ない。でもね、裏表紙の要約文(?)は興味をもたせるのに充分な、かっちょいい文章だった。
1947年1月15日、ロス市内の空地で若い女性の惨殺死体が発見された。スターの座に憧れて都会に引き寄せられた女性を待つ、ひとつの回答だった。漆黒の髪にいつも黒ずくめのドレス、だれもが知っていて、だれも知らない女。いつしか事件は<ブラック・ダリア事件>と呼ばれるようになった――"暗黒のLA"四部作の、その一。
もちろんエルロイが書いたんじゃないことは分かっているけれど、「だれもが知っていて、だれも知らない女」っていうフレーズ、し び れ る !!

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そういえば、自分が面白いなと思った本を読んだあとはアマゾンのレビューで他の人の感想を探すことがあります。んで、この本もしかり。その中に気になったものが一つあったんだ。

■ アマゾンのレビューより
15 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0 暗黒面を取り上げ過ぎ, 2006/11/4
レビュー対象商品: ブラック・ダリア (文春文庫) (文庫)

本作を読んだのは5年以上前の事。これ程の話題作になるとは思わなかった。想像するに話題の原因は本作がLA暗黒4部作の第1作とされ暗黒面が(出版社によって?)強調されている事、物語が実際にロス空港の近くの空き地で起きた猟奇殺人(被害者の呼称がブラック・ダリア)をモデルにしている事、作者の母親が殺人の被害者になり、それが作品に反映されていると想像される事、デ・パルマ監督による映画化がされる事あたりか。

しかし、本作は「東電OL殺人事件」、「世田谷一家殺人事件」のように作品中でモデルとなった事件の核心に迫ろうとする意図はなく、主人公の黒人刑事を中心とした当時のロスの雰囲気を描こうとしたものである。実際、事件は未解決のまま終る。作者に猟奇趣味はない。戦勝後のロスの自由ではあるが退廃的なムードは良く描かれているし、人種差別やドラッグ等も当然のように描かれる。そうした雰囲気をダークと感じる人にはそれで良いと思うが、暗黒面だけがエルロイの持ち味ではない。

主人公の黒人刑事は、人種差別の壁もあって屈折した行動を取るが、次第に事件にのめり込んで行く。本作は主人公のある種の精神的成長物語とも取れる。その他の人物・背景に関する書き込みも多いので、色々な受け止め方ができると思う。ブラック・ダリアをモチーフに、当時のロスの人間模様を描いた秀作。

こ、こ、「黒人刑事」!?!? じ、じ、「人種差別の壁もあって屈折した行動を取る」!?!?
このレビューを初めて読んだとき、心底ビックリした。だって、本作を読んでいるあいだ、主人公のバッキー・ブライチャートが黒人だなんてオレはツユほどにも思っていなかったし、もしそんな大切な要素を見落としていたんならストーリーの意味合いがまるっきり違ってしまう。これはもしや、ジョシュ・ハートネット(=白人の俳優)が主演の映画を先に観てしまっていたせいで、自分の中で「主人公は白人だ」という刷り込みが出来ていたのかも…、などと慌てて文庫本のページをパラパラ繰るも、どこにも主人公が黒人であること、あるいはそれを匂わせるような記述は見当たらないんですけどー。それどころかさー、394ページ目に「ブライチャートとブランチャード。身をもちくずした二人の白人ボクサー。」っていう文を発見したんですけど!! は・く・じ・ん・ぼ・く・さ・ー!! はー、スッキリした。ちょっと粘着っぽいですかね、サーセン。

改めて言うまでもなく、間違いや思い込みというものは誰にでもあるものです。もちろん粗大ゴミ、別名オレもその例外ではございません。ただ、このレビューにおける「これ程の話題作になるとは思わなかった」だとか「それだけがエルロイの持ち味ではない」といった表現から感じられる、このレビュアーはよっぽど小説(少なくともジェイムズ・エルロイの著作)を読み込んでいらっしゃる文学通なんだろうなっていう印象と、ストーリーを左右しかねない重要な設定を思いっくそ読み違えている超絶読解力との間に、わたくしは強烈な断絶、深い闇のようなものを感じたということをお伝えしたいだけなのです。

さて、「暗黒のLA四部作」の一発目を読み終わって、次にエルロイを読むとしたら四部作の第2弾にあたる『ビッグ・ノーウェア』になるはず。いつになるのか分からないけど、次のも面白いといいなー。
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ちく森 [読んだ本 / 好きな文章]

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『ちくま文学の森』という、古今東西の作家による短編を集めた全10巻の文庫があって、ずっと前に買って放置してた『美しい恋の物語 』(ちくま文学の森1)と『悪いやつの物語 』(ちくま文学の森7)の2冊を交互に読み進めてたんだ。寝る前に、薄れゆく意識のなか半目開きでちょこちょこと。ちなみに、なぜこの2冊を選んだのかは今となっては謎です。

『美しい~』は14編、『悪いやつ~』は21編の話が収めらていて、「名前だけは知っているんだけど実は読んだことなくて…」っていうような有名な人の文章が一冊でいろいろ読めたから、その全部が面白かったわけじゃないけれど、お得感はけっこうなもの。それぞれの収録作品は以下の通り。筑摩書房のホームページよりペーコピさせてもらいます。

『美しい恋の物語』
初恋 島崎藤村/燃ゆる頬 堀辰雄/初恋 尾崎翠/柳の木の下で アンデルセン(大畑末吉)/ラテン語学校生 ヘッセ(高橋健二)/隣の嫁 伊藤左千夫/未亡人 モーパッサン(青柳瑞穂)/エミリーの薔薇 フォークナー(龍口直太郎)/ポルトガル文 リルケ訳(水野忠敏)/肖像画 A・ハックスリー(太田稔)/藤十郎の恋 菊池寛/ほれぐすり スタンダール(桑原武夫)/ことづけ バルザック(水野亮)/なよたけ 加藤道夫


『悪いやつの物語』
囈語 山村暮鳥/昼日中 老賊譚 森銑三/鼠小僧次郎吉 芥川龍之介/女賊お君 長谷川伸/金庫破りと放火犯の話 チャペック(栗栖継)/盗まれた白象 マーク・トウェイン(龍口直太郎)/夏の愉しみ A・アレー(山田稔)/コーラス・ガール チェーホフ(米川正夫訳・編)/異本「アメリカの悲劇」 J・コリア(中西秀男)/二壜のソース ダンセイニ(宇野利泰)/酒樽 モーパッサン(杉捷夫)/殺し屋 ヘミングウェイ(鮎川信夫)/中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃 三島由紀夫/光る道 檀一雄/桜の森の満開の下 坂口安吾/女強盗 菊池寛/ナイチンゲールとばら ワイルド(守屋陽一)/カチカチ山 太宰治/手紙 モーム(田中西二郎)/或る調書の一節 谷崎潤一郎/停車場で 小泉八雲(平井呈一)

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まず前者でいちばん面白かったのが『ポルトガル文』(リルケ訳/水野忠敏訳)っていうやつかな。フランス男にフラれたポルトガル人の尼さんが、計5通のお手紙を通してほとばしる情念を叩きつけるッ! その流れるような、かつハイテンションな文面がすげえ楽しかった。きっと訳も上手いんだろうな。そもそもなんで訳者が二人いるんだよ馬鹿と仰りたいでしょうが、これは17世紀のマリアンナ・アルコフォラドっていう実在の尼さんの本当の手紙らしいス。それをドイツのリルケが訳して、さらにそれを…という。人の手紙を勝手に出版すんなよな。
あとは、ウィリアム・フォークナー『エミリーの薔薇』(1930年)が孤独感ビシビシで、伊藤左千夫『隣の嫁』(1908年)が農村エロスぷんぷんでそれぞれ気に入った。尾崎翠の『初恋』(1927年)も爽やかで良かった。フォークナーは短篇集を捕獲。いつか読もうっと。

もう一冊の『悪いやつ~』だと、檀一雄による『光る道』(1956年)がずば抜けて好きです。律令制下の日本、お姫様を連れ出した若者のお話。姫様の純朴さの裏にある何かがちょう怖い。坂口安吾の『桜の森の満開の下』も同じようなテーマで、中世の都を舞台にした女のクレイジーっぷりが面白かった。なんか最近、鎌倉から室町期あたりの中世のドロドロ感というか権力がめちゃくちゃに乱立していた混沌さとかに惹かれる。そう、いま中世がアツい! 今年の夏は中世で決まり! 代官山では水干・直垂がマスト!
さらに、高校生だか大学生の頃に『月と六ペンス』を読もうとして数ページで放り出したサマセット・モームの『手紙』(1926年)が、話そのものは大して面白くはなかったものの、普通の小説として普通に読めたから安心した。谷崎潤一郎が書いた『或る調書の一節』は、読んでいてほんとに胸くそ悪くなった。「悪いやつ」の本なんだから、これこそがテーマ通りの作品なのかもしれないけどねー。

いま読もうと思っててツンドクしてる本が消化できたら、また気まぐれにこのシリーズのどれかを手にとりたいッス。残り8冊、一年に1冊ぐらいのペースが自分にはちょうど良いかも。
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またマンガ [読んだ本 / 好きな文章]

そう、分かってる。いまの自分にどうしたって足りないのが、池上遼一的な要素であることは。

RIMG5512.JPGちゅうわけで、ハードボイルド成分を補給すべく『strain』(全3巻)と『サンクチュアリ』(全7巻)を2週間かけて読んだよ。プハーッ。男くさくて暑苦しくてオモロー。おおざっぱに言えば、すごいポテンシャルを秘めた主人公が次から次に出てくる強敵と闘うっていう少年漫画的スタイル。
RIMG5515.JPG勉強不足ゆえ、原作担当の武論尊(ぶろんそん)と史村翔(ふみむらしょう)が同一人物だって知らなかった。そういえば梶原一騎もペンネームを使い分けてた気がするナー。

とりあえず、もうこれでオレが仮にマレーシアを舞台にした血みどろの抗争劇に巻き込まれたとしても大丈夫だし、政界進出を目指す親友のために極道の世界で覇権を争うハメになっても、その心構えは出来ました。

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スティール・ボール・寄生獣 [読んだ本 / 好きな文章]

RIMG5257.JPG荒木飛呂彦の『スティール・ボール・ラン』、ようやっと最後まで読み終わりました。あらすじを忘れた頃に近所のゲオでレンタル。やっぱシュガー・マウンテンのエピソードが好きだ。ゴゴゴゴゴゴゴ。
RIMG5260.JPGんで、いっぺんに5冊以上借りると安くなるという商法にまんまと乗せられて、『寄生獣』も借りてみました。このマンガは自分が高校生だか中学生の頃に流行っていたような気がするけど、今まで、ついぞ読んだことがなく。ほへー、こういう話だったんだー。思ったよりシリアスすなあ。ドドドドドドド。

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あなたは時々、わたくしに赤い顔をおさせなさいますわ [読んだ本 / 好きな文章]


人情武士道 (新潮文庫)

人情武士道 (新潮文庫)

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1989/12
  • メディア: 文庫

『青べか物語』において、その巧みな人物描写にいたく感銘を受けた(過去ログ宣伝厨)山本周五郎先生の短篇集。読むのに数ヶ月かかったよ。内容が難しいわけでもないしボリュームがあるわけでもない。暇なときに読もうとしていたけど、その「暇なとき」をスマホの野郎がどんどん吸い取っていき、読書なんていう娯楽はどこかへ消えちまったのさ。ほんま、あいつは現代の時間泥棒やで…。

ともあれ、タイトルから想像される通り、12編あるうち10話が江戸時代のお侍や町人、職人らが主人公の時代物。そのほとんどが多かれ少なかれ人生の悲哀を感じさせるもので、そこにチャンバラのアクションシーンが盛り込まれているものも結構あって、なかなか面白かったです。

いまパラパラめくってみると、「大将首」っていう話がいちばん好きかも。長年うだつが上がらず奥さんに迷惑をかけっぱなし、でも腕は一流という下っ端侍が、手違いで藩の上官と斬り合いになってしまい…という筋で、夫婦の絆にホロリ&結末がちょうスカッとする。これに限らず、全話に通俗的なB級テイストがプンプンしていて、まさに娯楽ものやね。

この本は、いろんな雑誌に読み切りとして書かれた作品を集めたものらしいんだけど、そのどれもが古くていちいちビビった。各話の最後に初掲もととして(「キング」昭和八年二月号)とか、(「講談倶楽部」昭和十四年十月号)とか載ってる。もちろん昭和だろうとは思っていたものの、まさか戦前とは。

でも、いままで社会の史料集経由で単なる知識としてしか知らなかったあの有名な『キング』がグッと身近に感じられて、ああ、その誌面に印刷されていたこういうお話を戦前の人たちはエンターテインメントとして楽しんでいたのだなあという実感、いわば「臭い」がひしひしと伝わってきた。その生々しい臭覚がいちばんの収穫ッス(ダジャレ)。あとがきを読むと、そういう大衆的な雑誌に書くことにシューゴロー自身は複雑な思いをいだいていたようで、『青べか物語』のことも考えると、その点もなかなかに感慨深いものであるッス。
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トーソン初体験 [読んだ本 / 好きな文章]


破戒 (新潮文庫)

破戒 (新潮文庫)

  • 作者: 島崎 藤村
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/07
  • メディア: ペーパーバック

数年来にわたってお世話になっている床屋さんには、暇つぶしのための本の中に「漫画で読む日本の古典」みたいなのが何冊か置かれています。そこで途中まで目を通したのがこの『破戒』(の漫画版)ッス。へー、受験勉強で作品名だけは知ってたけどこんな話なのかーと興味をもって、本物のほうも読んでみた。

明治期の長野の学校を舞台に、主人公の教師が被差別部落出身であることをひた隠しにして過ごすが…というお話。さぞかし堅苦しくて読みづらい本なんだろうなと思っていたら、意外や意外、そんなことはほとんどなくて、ぐいぐいとお話に引っ張られてしまった。文体や言葉遣いはさすがに古い(し、当て字がめちゃくちゃに多い!)んだけど、ストーリーがエンターテイメントしてて飽きなかったんよ。
つまり、主人公・丑松の出自がバレそうになる過程をじわじわと遠いところから描いていって、クライマックスでバーンっていう感じ。そのハラハラっぷりがしっかりと飽きさせない仕組みになっていたし、想像もしていなかった淡い色恋のお話も並行して進んでいくしで。これが島崎藤村の狙ってやったことか、はたまた結果的に起伏に富んだ構成になったのか…やっぱどう考えても前者だろうな。いままで「苗字とファーストネームが紛らわしい人」程度の認識でしたけど、まじすいませんでした。トーソンさすが。

それにしても差別問題っちゅうのは根が深いやね。特に気になったのが、この小説での差別の捉えられ方。それは、差別そのものを憎むというよりは、差別されてしまう身分・立場を憎むっていうスタンスであるような気がすること。現代から考えると、そりゃちょっと違うよというツッコミも入れることが出来るかもしれないけど、やっぱそれは後世ならではの特権であって、差別に対する闘争(?)においては必然的にこういうプロセスを辿るものなのかもしれない。ごめん、本当に何言ってるのか分からない文章だ。

オレ自身、正直言って、差別というものがよく分からないです。それが良くないものっていうことは「何となく」というレベルでは理解しているつもりなんだけど、その理論的なバックボーンとなると極めて心許ないッス。おまえはボンクラ私大の法学部で何を学んだのかね。
しかも、自分自身の中にも差別意識の芽のようなものが絶対にあると思う。それを、お勉強で学んだ清らかな建前で封じ込めて涼しい顔してるだけなんじゃないかっていう自分に対する疑念。うーん、やっぱり根深いゼ。
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アメリカの人気作家であるところのスティーヴン・キングは進んで読むくせになんなのこの人 [読んだ本 / 好きな文章]


返事はいらない (新潮文庫)

返事はいらない (新潮文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/12
  • メディア: 文庫

恥ずかしながら、ベストセラー作家・宮部みゆきの著作はこれまで一回も読んだことがなくて、でもあるとき急に『火車』っていう代表作(なのかな?)を読みたくなって、すげえ売れたんだろうから古本屋にあるハズと思って突入するも見当たらず、その代わりと言っちゃあなんですけど、この短篇集『返事はいらない』を買ってきたわけです。「読みたいなら新品で買えよクズが」という批判はご無用、オレクラスのケチンボともなると暇つぶし用の文庫を新品で買うという発想がハナから無いのです。

んで初・宮部の感想としては、うーん、いまいち。各話それぞれがミステリーっぽい鮮やかな(と作者が考えているであろう)オチがついているものの、そこにたどり着くまでのストーリー展開が強引ちゅうか、「こんなすごい結末考えちゃったんで、なんとかそこに持ってくためには…」みたいな苦しさがひしひしと感じられるっちゅうか。読んでいる間、それがどうしても気になっちゃった。

ひょっとすると、これはオレが小説に求めているものが宮部ファン(?)とはちょっと違っていて、こういうのが好きな人にはたまらんのかしらと思わなくはないです。あと、たった1冊だけで宮部みゆき分かったような気になってんなよてめえというお叱りもちょういただきそう。人気作家、怖い。

そう、そうなんですよ。オレの脳内フォルダで、「いま人気の日本の作家さん」ていうのがあって、そこにこの宮部みゆきと東野圭吾が入っています。で、東野圭吾も昔『変身』っていうのを読んだことがあるんだけど、それはハッキリ言うとぜんぜん面白くなくて。なんでこれが売れたのかなーとさえ思ったぐらい。

それ以来、東野圭吾がどれだけ売れようと、いや、売れれば売れるほど、「ああ、『変身』の人かあ…」みたいなレッテルが自動的に貼られてしまうようになって読む気をなくすばかりか、その影響がこのフォルダ全体にまで及んでしまって、「宮部みゆきもきっとさあ…」とか、「読んだこと無いけど、名前をよく聞く伊坂幸太郎っていう人もたぶん…」みたいな、当世人気作家に対する謂れなき偏見がオレを覆うことになっています。この病を治すには、やっぱり彼らの作品を読んでいくしかない。手始めに、そう、『火車』だな。ただし古本で。
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私って、ほら、もともと粗悪品でしょ。ただのビニール人形だから。 [読んだ本 / 好きな文章]


東京夜話 (新潮文庫)

東京夜話 (新潮文庫)

  • 作者: いしい しんじ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 文庫

こないだ感想文みたいな何かを書いたスティーヴン・キングの『ローズ・マダー』は上下巻を読み続けるのが飽きそうだった(え!? あんだけ面白いとか言ってたのに!)から、その2冊の間にこれを読みました。いしいしんじの「『ぶらんこ乗り』の前史時代、原石の魅力が煌く幻のデビュー短篇集」(裏表紙より)だそうで。

18話それぞれの短篇に下北沢だとか田町だとか霞ヶ関だとか、各エピソードの舞台となる東京の地名が掲げられていて、それをざっと眺めるだけで何だか楽しい。そして、それぞれの内容もバラエティー豊かで、不思議なものもあれば切ないものも、あるいは可笑しかったりちょっとゾッとするようなものも。この本、好きだな。

とりわけ気に入ったのは、古書店街で不思議なじじいと出会う「老将軍のオセロゲーム 神保町」、大海原を股にしてのロマンスを描く「クロマグロとシロザケ 築地」、捨てられたダッチワイフとの切ない話「天使はジェット気流に乗って 新宿ゴールデン街」、"先生"と呼ばれるホームレスとのほんわかした交流がテーマの「吾妻橋の下、イヌは流れる 浅草」の4つかしらん。他にも面白い話がもちろんあったし、やっぱこの人うまいなー。

さいごに、「老将軍のオセロゲーム」から好きな文章を。おまえ何かっつうとすぐ引用すんのな!
 神保町ほど「内と外」のコントラストが鮮やかな場所はない。他人がいて、会話があって、太陽が照って風が吹く。そういう「外」を、「内」、つまり店の中ではまったく意識することがない。洋書専門店の二階にいたりすると、外で世界が終わってしまっていてもきっと気づかないだろう。核シェルターが欲しい人は古本屋で働くことだ。
 本は違った世界への扉を開く、と小学校で国語の教師が口酸っぱく言っていた。たしかにその通りだ、とぼくは思った。そのかわり、表紙をめくると背後でもうひとつの扉が閉まる。本は「外」の世界を一時的にしろ滅ぼしてしまう。
 古本は、それぞれ一冊がいろんな世界を滅ぼしてきた。兵器としての年季が、そこらの新刊本とは違うのだ。もはや「なにかのため」に書かれる実用書などは、兵器として用をなさない。

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みっちりと話し合おうじゃないか [読んだ本 / 好きな文章]


ローズ・マダー〈上〉 (新潮文庫)

ローズ・マダー〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: スティーヴン キング
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1999/05
  • メディア: 文庫

またやっちまった…。新潮文庫の黒い背表紙に釣られて、またキングの長編を読んじまった。今回読んだのは2分冊のバイオレンスもの。やたらと幻想的になる上巻の最後のほうがダルかったけど、それ以外はすごく面白かったです。以下、裏表紙より。

このままでは殺される――ある朝、シーツについた小さな血の染みをみつけて、ローズはそう口にしていた。優秀な刑事の夫ノーマンも、家ではサディストの暴君。結婚後の14年間暴行を受け続けたローズは心身ともにもう限界だった。逃げ出そう。あの人の手の届かないところへ――。だが、家出をした妻をノーマンが許すはずがない。残忍な狂気と妄執をバネに夫の執拗な追跡が始まった!

暴力あり、サスペンスあり、ロマンスあり、ファンタジーあり、ちょいエロあり。そのどれもがキング先生の通俗的なタッチでまとめられ、読ませる読ませる。ハンバーガーとポテトとフライドチキンをビールで一気に流し込んでプハーッってなる感じ。「マクロビ」とか唱えてしまうような人たちには決してオススメできないけれど、オレはこのお下品さが大好きだ。

…そう、まさにキーワードは「下品」。ストーリーの奇抜さとか人物描写の巧みさとか、そりゃもう、かのスティーヴン・キングなんだからすごいところはいっぱいあるはず。でも、それらに加えて個人的に欠かせないのがお下品な描写、低俗なセリフで、正直に告白しますならば、自分はこれを楽しみたくてキング作品を読んでいるという部分もおおいにあると思った。変態おつ。

例えばこんなとこかしら。逃げた妻の手がかりを探るべく、情報を知るチンピラを公園のベンチに座らせて、暴力夫ノーマンがチンピラのキンタマを握りつぶそうとしながら(!)脅しをかけているシーンから抜粋してみる。

「よし。さて、教えてもらいたいのはこういうことだ。どうせ、ちんけな鼻つまみ者のスペ公オカマのおまえのことだ、せいぜいやりたい盛りに母親のケツの穴にねじこんでたくらいで――ああ、マザーファッカーを絵に描いたような面がまえだからな、おまえは――女のことはからきし知らないだろうが、それでもちっとは想像力を駆使してもらいたい。うちに帰ってみると女房が――いいか、愛と貞節と、ちっくしょう、服従を誓った女がてめえのキャッシュカードをもってずらかったら、いったいどんな気分になると思う? しかも女房がそのカードをつかって、くそ休暇用の資金を引き出したうえ、カードをバス・ターミナルのごみ箱に投げ捨てていき、おまえのようなちんけで卑しいちんぽ吸い野郎に拾われたと知ったら、どんな気分になる?」
「いい気分にはなれないな」ラモーンはささやき声で答えた。(中略)
「いい気分にはなれない?」ノーマンはラモーンの顔のまん前でささやいた。その息は熱く湿っていて、酒とタバコの臭気がした。「それが、おまえの精いっぱいの答えだというのか? 救いようのない低能だな、まったく! だが……まるっきり見当はずれの答えでもないか」

うへーん、最低! でもたまらん! あと、これはやっぱり訳者の功績でもあると思うんよね。同じレベルの悪態をつくにしても、日本語であれば絶対にこうは言わないであろうという言葉遣いではあるけれども、いや、だからこそその翻訳っぽさを楽しめるというか。決して不自然な日本語ではないにもかかわらず、翻訳本でしかお目にかかれないような罵倒語を(たぶん意図的に)使って訳してくれている白石朗さん、グッジョブ。この人、よくキング作品の翻訳をしているけど、下の名前「朗」の読み、ずっと「あきら」だと思ってたら「ろう」なのね。ちっくしょう、オレのようなクサレ低能のちんぽ吸い野郎には思いもよらなかったぜ。
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