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ちくま哲学の森 [読んだ本 / 好きな文章]

ちくま哲学の森 1 生きる技術

ちくま哲学の森 1 生きる技術

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/09/07
  • メディア: 文庫
これまでに2冊を読んだ『ちくま文学の森』っていうシリーズを初めて見かけたのは市立図書館の書架の高ーいところで、その近くの棚に、この『ちくま哲学の森』も置いてあって、いつか読んでみたいなと思ってた。んで、図書館にあったハードカバーの大きいやつではなく、コンパクトな文庫版をゾンアマの古本で買って初挑戦。「哲学」っていうタイトルにビビっていたけど、少なくともこの「~1 生きる技術」にあっては、内容的には随筆集って考えて大丈夫でした。つまり、リアル哲学っぽいのはほとんど無かったから、か弱きオレの脳味噌はことなきを得た。

特に面白いと思ったのは以下の2つかしら。ちょっと長いけど引用してみる。一つ目は斎藤隆介『大寅道具ばなし』というやつで、昭和42年の雑誌『室内』に掲載されたものだってさ。書いた人のことは全然知らないのだけど、熟練の大工が語る道具に対するこだわりのようなものが切れ味の良い文章で描かれていてイカしてるなって。
 たとえば道具だ。道具に対しての扱いや感じ方がまるっきり違う。倅たちには道具はタダの道具だけど、あたしらの年頃に仕事を仕込まれたものは、道具は女房みたいなもんだし、大ゲサに言やア命みたいなもんだ。
 あたしは十六から仕事を覚えさせられたんだが、それから二年目、十八のときだったといまでもはっきり覚えているが、道具についてえらい恥をかいたのが肝に銘じて、それから根性が変った。
 え? なにね、仕事場へいって、年寄りに、
「すいませんが、ちょっと小ガンナを貸してもらえませんか」
 ってったんだよ。そしたらその年寄りがね、ジロリと横目で流し目に見て、なんとも言えない笑い方をすると、小ガンナを渡して寄越しながら、
「ハイヨ。あると重宝だよ」
 って言ったんだ。それだけだが、あたしァ顔から火が出たね。受けとった小ガンナが、ジリッと手に灼きついたような心持ちがして、しばらくは顔もあげられなかった。
 ――あると重宝だよ……。そう言った年寄りの皮肉を、それからあとも時々思い出しちゃア舌を噛み切りたいような気のしたことがなんべんもあるね。その時の、まるで「女房を貸せ」とでも言われたような、不愉快そうな、にがい、そしてあきらめてうすら笑いした年寄りの目を思い出すと、あたしは地ベタを転げまわりたいほど恥しい気がしたもんだ。
 その時からあたしは決心した。
「ヨウシ、道具は貸しても借りねえぞ」
 だけど貸すのはやっぱりいやだった。のちのち自分がキチンと道具を揃えて仕事場にいって、不用意な奴から貸せと言われて渡してやる時は、「あると重宝だよ」とは言わなくても、あの年寄りとおんなし目付きをしているのが自分にもわかったね。

二つ目は、昭和22年の『婦人公論』が出典の、林達夫による『邪教問答』。前から不思議に感じていた「伝統や歴史があるというただそれだけで、(その対象が宗教であれなんであれ)人は何故こうもありがたがるのか」っちゅう点について書かれている文章を初めて活字で読んだものだから感激しちゃった。文章もさすがにうめえし。ただし、この文は自分の謎に対する答えそのものではないんだけれども。
 私があなたの手紙を拝見してひどく気になったことは、このごろ世間を騒がせている新旧のいわゆる類似宗教を頭から「邪教」と決めつけて見下しておられる、その態度であります。あたかもあなたの属しておられる教会が高級でもあるかのように。
(中略)
 あなたは新しく簇生(そうせい)する宗教を「邪教」と呼んでなにか胡散くさい、いかがわしいもののように見ておられるが、いったい邪教という呼称が何を指す言葉であるか、それを考えてごらんになったことがありますか。新しく出現した宗教は、古来、国家によって公認された既成宗教から必ず邪教扱いされてきたのであります。あなた方の奉ずる宗教だって例外でなく、十六世紀にそれが日本にはいって来た後、キリシタン・バテレンといえば妖法を行う邪宗門と相場が決まっていたのです。
(中略)
 すると、あなたはすぐに反問されるでしょう。自分のいう邪教とは蒙昧な神憑り(かみがかり)や狂人やぺてん師たちの合作社を指すのであると。ところがお気の毒だが、あなた方の宗教だって、初期には世人からそう見られていたのであり、また事実かなりの程度にそうでもあったのです。
(中略)
宗教の宗教らしい本来の面目を発揮しているのが、休火山みたいに玲瓏と聳え(そびえ)立って深々と眠っている既成宗教なのか、それともごったがえしに沸き立って身も心も焦しているいわゆる類似宗教なのか、それはにわかに定めがたいことであります。いったい宗教とは何ですか。また宗教の発達とか進化とかいっているのは何のことなのですか。第一、宗教に進化などというものがあるのですか。――すばらしい衣装持ちのお化粧上手の宗教のことです。私はその色とりどりの衣装のことや凝ったお化粧のことをいっているのではありません。白粉(おしろい)ぬきの素顔、着物をすっかり脱ぎすてた素裸の宗教のことをいっているのです。

例によって、筑摩書房のホームページから収録作をペーコピさせてもらうぜぇ。
道ができている場所では タゴール(山室静)/空気草履 古今亭志ん生/大寅道具ばなし 斎藤隆介/対談 浪花千栄子・徳川夢声/いろはだとえ モラエス(花野富蔵)/新橋の狸先生 森 銑三/貨殖列伝 司馬遷(小川環樹)/長者の聟の宝舟 辻まこと/高利貸に就いて 内田百間/ハリー W・サローヤン(関汀子)/饒舌について プルタルコス(柳沼重剛)/嘘つきの技術の退廃について マーク・トウェイン(三浦朱門)/結婚生活十則 サーバー(鳴海四郎)/僕の孤独癖について 萩原朔太郎/ある〈共生〉の経験から 石原吉郎/権利のための闘争(抄) イェーリング(村上淳一)/レッスルする世界 ロラン・バルト(篠沢秀夫)/ニコマコス倫理学 第二巻第九章 アリストテレス(高田三郎)/みずから考えること ショーペンハウアー(石井正)/邪教問答 林 達夫/脳病院からの出発 チェスタトン(安西徹雄)/随想録より モンテーニュ(関根秀雄)/いかに老いるべきか ラッセル(中村秀吉)/ケニヤ山のふもと ケニヤッタ(野間寛二郎)/サーメの暮し ユーハン・トゥリ(三木宮彦)/結婚について・子どもについて ジブラーン(神谷美恵子)/老子(抄) 老子(小川環樹)/日本の理想 唐木順三
あまりに乏しすぎるオレの"生きる技術"が向上したかどうかは大いに疑わしいにせよ、上に引用した2編以外にもチラホラとそそられるものもあったし、『文学の森』のときと同じく色んな有名作家の文章を味わえるお得感も感じられたから、また忘れた頃に残り7冊のうちどれかを読んでみようかな。

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図鑑少年 (中公文庫)

図鑑少年 (中公文庫)

  • 作者: 大竹 昭子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/10/23
  • メディア: 文庫

ずーっと『哲学の森』は飽きるかも…みたいなことを思って、この短篇集も並行して交互に読んでみた。もともと1999年にハードカバーの単行本が出た当時、すごく気に入っていたんだ。ブッコフで文庫化された古本を発見して、わー懐かしいと久しぶりに読んでみると…やっぱりこの人の書く文章はすごく良いと思う。さらさら&シャキッとしていて嫌味がない反面、人生の苦味をどこか感じさせる。それでいて、しっかりと前向きなんだ。…何を言ってるかサッパリですよね、サーセン。とにかく、向田邦子に通じるような、オレの一番好きなタイプの日本語だっつうことです。ここでなぜか唐突に裏表紙より紹介文を引用。

都会に暮らす「わたし」が遭遇する小さな事件や出来事。それらは本当に起きたのか、それとも「わたし」の妄想なのか。胸にせまる人やもの、音や情景を辿って、現実と非現実のはざまをたゆたう24篇。新しい都市奇譚として話題を集めた作品集の待望の文庫化。

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もうずっと前の話だから正確には覚えていないけれど、同じ大竹昭子さんによる『アスファルトの犬』という短篇集にあった一篇(ニューヨークかどこかのグラフィティ・アーティストの話)にとても惹かれて、確かそれがきっかけになって『図鑑少年』も読んでみたんだと記憶している。じゃあ、『アスファルトの犬』は何を契機で読もうと思ったのだろう。それはもう思い出せないや。
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